自然の木材を使った居住空間による健康の維持増進

自然の木材を使った居住空間による健康の維持増進

人と木は、古来より共存してきました。私たちは、食器、調理器具、玩具、家具など、木を使ったさまざまな日用品を製作し、私たちの暮らしの中で利用してきました。木を燃やして暖をとり、調理を行ってきました。そして何よりも、伝統的な日本の家屋は木造住宅でした。古来より、木は私たちの生活に欠かせないものとなっています。

その一方で、産業の発達に伴い、化成品やプラスチックなど、石油を原料としたさまざまな工業材料が開発されました。住宅でもプラスチックの内装材や床材が使用されるようになり、化学薬品の塗装でさまざまな色調が表現されるようになり、住宅の室内の雰囲気は大きく様変わりしました。工業材料の使用で私たちの暮らしは便利で豊かになったのは明らかですが、木に備わっていた長所を損なっているかもしれない、ということに私たちは気づいていないのかもしれません。

実験棟は本社屋敷地内にある。

以前より、木は温度や湿度を調節する機能を有することが知られていました。奈良の正倉院では、校倉作りの建物の中で、およそ1500年にも渡って宝物が保存されていますが、カビなどの被害が発生せず良好な状態で宝物が維持されてきました。手や足が木に触れたとき、人は心地よく感じます。木には多くの空気層が含まれているため断熱性が高く、触れた時に体温が奪われにくく、暖かく感じるのです。木の香りも私たちには心地よく感じます。木の成分の中には、ストレスを緩和する効果や質の良い睡眠を得る効果をもつ物質があるといわれています。

しかし、これらの効果について、住宅の部屋の中で科学的に検証された報告は、これまであまりありませんでした。私たちは何十年も住宅の中で生活しますので、長期間にわたった検証も必要ですが、そのような報告はほとんどみあたりません。そこで私たちは、住宅の部屋の内装において、自然の木材を利用した場合に、室内空間や居住者に対してどのような効果があるのか科学的に検証したいと考えています。そしてこのたび、エコ建築考房さんが建設された実験施設で共同研究を開始することになりました。エコ建築考房さんでは、2016年6月に、自然の木材や内装材で仕上げた部屋、工業材料で仕上げた部屋の二つを有する実験施設を愛知県一宮市のエコ建築考房さんの敷地内に建設しました。私たちはそこで長期間にわたり、室内の温湿度、化学物質濃度、カビの濃度を測定します。また、実験に協力してくださるボランティアの方にそれぞれの部屋に入っていただき、生理的な状態や心理的な状態を計測します。これまでの研究結果からは、自然素材で内装材を仕上げた部屋では、工業材料で仕上げた部屋に比べ、部屋の印象評価が高いこと、気分状態が良いことなどの結果が得られました(注)。

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注)萬羽郁子、山田麗美、東賢一/木質内装が在室者の心理・生理反応に及ぼす影響、日本家政学会第69回大会(奈良女子大学)で研究成果を発表しました。

 

あずま・けんいち/博士(工学)
近畿大学医学部准教授。著書・監修に『住居医学Ⅳ』(米田出版)、『建築に使われる化学物質事典』(共著・小社刊)、『予防原則︱︱人と環境の保護のための基本理念』(合同出版)など。専門分野は、公衆衛生、環境保健、健康リスク評価。主に生活環境中の化学物質や微生物による健康影響の研究に携わる。

ばんば・いくこ/近畿大学医学部環境医学・行動科学教室助教を経て、東京学芸大学教育学部講師、博士(学術)。
環境整備にかかわる住まい方と、室内のにおいや化学物質・微生物などによる空気汚染について研究。著書に『東日本大震災 石巻市における復興への足取り︲家政学の視点で生活復興を見守って︲』(共著・建帛社刊)

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